あかんたれブルース

継続はチカラかな

三浦シビ子の危険なキス



土寺ブリ子には姉がいて国分寺に住んでいます。

これが同じ親から生まれたか?と疑うほど似ていない。
スラッとした美人です。
昔看護婦だったのを医者だった旦那さんに見初められて
玉の輿にのったほどですから、わかるでしょう。

声も若い。
今年86歳とは思えない。
この間、昼間から電話に出ないから
死んでるんじゃないかと
夜になってブリ子が騒ぎ出し、
お前から電話しとくれと強要されて、したんです。

「あらあ、馬ちゃ~ん」

まるで二十代の女性のような声だ。
ボーッとなりました。実は声フェチなのだ。

この叔母を三浦シビ子としましょう。

シビ子はセンスもあって家も整理整頓がなされて
とても綺麗です。
考え方も合理的で経済観念も
しっかりしている。

無駄がないんです。
マカロニウエスタンのようにキマッている。ビッチと。
他人からみたら冷たく感じるかもしれない。
実際、幼い頃からブリ子にシビ子の話を聞いていて
冷たい女性だと感じていました。

でも、どこかでそういう女性に憧れていたと思う。

男子は、自分の母親に似たタイプを
好む、選ぶ、とかいうけれど
わたしは違った
まったく逆。

逆張りに奔ったんですね。
すべてブリ子の逆タイプを選んだ。結果としてね。
そのときは気づかなかった、無意識だったんだと思います。

がさつでデリカシーがなくて大雑把
アクティブでアグレッシブルでドラスティック
三人家族でもいつも十人前の料理を作る物量大作戦

そういうものと反対のものを求めた。
まるではく細長いものを
気立ての良さよりも端麗を
熱燗よりも冷酒を
スクリュードライバーよりもドライマティー二を

ブリよりシビを。



若かったんだと思います。


麦の落雁をかじって
背中をまるめて芋焼酎のお湯割をすする。
さほど好きではなかったはずの
この落雁の甘さが滲みる。

それが懐かしさだけの彷徨なのかわからい。

ただ、残り四袋のキクラゲの佃煮が
冷静に脳裏にからみつく

ブリ子かシビ子か、あなたはどっち?