あかんたれブルース

継続はチカラかな

誠実な鉄人爺8号

知性と爺ショック(2)


K爺とは昨年の秋にある会合で知り合いました。
某大手一流企業の重役(専務)を退職された人物。
年齢は70歳だけど10歳は若くみえる。
なんか昔の東宝映画の名優のような
渋くて、長身で、ロマンスグレー、頭も相当キレそうだけど
仕事もできて豪腕でシビアな仕事の鬼といった感じ。

いま求められてるようなやさしい上司じゃない。
クールで厳格な、ちょっと近寄りがたいタイプでしょう。

さて、このK爺は小学校一年から六年まで級長だったそうな。
級長とは現在のクラス委員みたいなものですが
投票ではなく先生指名。
まあ海軍兵学校でいえばクラスヘッドみたいなものです。

たまにいますよね。
それもあって自分と比較して
あまりにも別種の人間のようにみえて
敬遠してしまうか、反発する人も多いでしょう。

強者、弱者で分別すれば火曜日に出す絶対の強者だ。
恵まれた人、恵まれた人生・・・それがゆえに
弱者の気持ちなんか理解しない
しても即座に斬り捨ててしまうリアリスト、合理主義者とか
なんて思われるかもしれない。

ところで、K爺は不思議に思うことがある。
自分はスポーツでもなんでも一番で学校でも有名人だった。
しかし、それが確定する小学校高学年ならわかるけれど
なんの予備知識もない小学校一年二年で級長に選ばれたのか?

持って生まれた何かがあったんでしょうね。
えっ、名士、資産家の子弟だった?
いえ、貧乏人の倅だったそうです。

そんな彼は中学二年まで勉強するという行為を知らなかった。
つまり授業を受けるだけでずっと一番だった。
(なんか腹立たしいな(笑))
さすがに中学二年頃になると周囲は塾に通いだし
一番ではなくなったそうですが、
それでも埼玉一の名門浦和高校に入学する。
級友は猛勉強して東大を目指すなかで
彼は家が貧乏だったので就職します。

それでも働きながら夜間の大学に通った。
六大学の下から二番目の大学です。

社会人になってもバリバリ仕事できる奴だ。
高卒でも夜学でも二流大学でも関係なく出世していきます。
現在でも某業界の重鎮といわれている人物だ。

強者、ライトスタッフ、選ばれし者・・・

ところがさ、
この男が、死にたいと思ったことがある。という

ある時期、忙しいときです。たぶん年中忙しいでしょうけどね。
社長から国会答弁の秘書を命じられた。
仕事と並行させてやらないといけない。めんどうだった。
というのも、K爺はこの社長が嫌いだった。
相性があわない。
それでもサラリーマンだからやらないといけないわけだ。

ある日、その用意すべき社長に渡す資料が
手違いから違う資料を作成していることに気づいた。
不味い・・・いまからじゃあ間に合わない。
どうするか・・・

そのとき、ふと、一瞬・・・・

K爺はこのまま知らないフリをして
この資料が社長に渡されれば、
国会で社長は立ち往生して大恥をかく・・・

無論、そんなことはしないしませんでしたよ。
直ちに政府の事務方に連絡して処置を施しました。

それからです。
K爺の心のなかにモヤモヤが生じて、それがとれない。

とれないどころか、

そこから闇のトンネルに入っていってしまった。
暗くて寒くて心細い場所だった。
途方もない闇の世界

それからずっとそのトンネルのなかを彷徨っていた。

彼は孤独だったのですね。
強かった、強くあろうとしていた、そして孤高であったけれど
そのトンネルの世界では孤独な人でした。

そのとき死にたいと思った
といいます。

彼がどうやってその闇のトンネルから抜け出したかは
聞かなかった。
これはK爺が学校のいじめ問題に対して
駆け込み寺のような場所、設置が具体策として
効果的かを語るうえでの彼のカミングアウトです。

地位も金も名声も手にした男が
なにも好き好んでそんな自分の弱さを告白するのか。
K爺はそんな甘っちょろいタイプではない。
それほどまだ親しくもないわたしなんかに
ある意味での「弱み」をみせる必要はないのだ。

彼はプライドの高い人間だ。
愚痴なんて漏らしたことはないだろう。
そういう孤高の人だ。
だから、そのときの一瞬の卑怯な己の考えが許せなかった。
そのプライドが孤高が、彼を深い闇に追い込んでしまった。
そのとき、本当につらかっただろうと思います。
あのとき、どこか駆け込める場所があったらと
どんなに助かっただろうとK爺は言った。
それでいじめがなくなるとはないだろうけれど、
そういう場所が必要なのだと。

この爺は人の痛みを知っている。

慧眼したよね。

いじめられて追い込まれているものたちがいる。
そういうものたちをほおっておけない
やさしさ、つよさをもっている

爺も捨てたもんじゃない