村山さん、弾はまだ残っとるがよ(17)
美土路と酒井の会話
「兄貴、この度国会を襲撃してクサレ外道を殺っちゃろう
思うちょるんじゃが、どがなもんじゃろうか」
大日本正義団総裁酒井栄蔵はこのクーデターで
浜口内閣を総辞職に追い込み宇垣一成陸相を首班とする
軍事内閣を樹立させるのだと息巻いた。
「ほう、随分と勇ましい話じゃが、お前
誰にそがな話を持ち込まれたんな？」
「有馬頼寧じゃ」
酒井は旧久留米藩主で有馬頼寧伯爵の名を出した。
農林族の政治家で、現在中山競馬場で行われる
暮れの有馬記念の名称はこの有馬から付けられている。
「ほうか、有馬に言われたんか・・・
ほんでお前は承諾したんじゃな」
「うん、やっちゃろう思うちょるんじゃが、どうじゃろう？」
「馬鹿タレ、われは良い歳をばしてからに
えっとおる若衆を抱えて有馬なんぞにケツかかれて
ノボセあがってこんタコが、旅の道具に使われるんか！」
「あかんじゃろうか」
「良い訳がないじゃろうが。
第一こがな話が成功するわけがない。
爆弾のかわりに使われてワレは死刑よ、のう。
他の奴らは知らん顔じゃ。何もなりゃせんじゃない。
なんでそがな事やる気になったんじゃ？」
「岡山の先輩宇垣に天下取らせるう言うから
ワシも手伝っちゃろう思ったんじゃが、やめさせようか」
「やめさせようもなにも、そがな話に初めから
やる気になるっちゅうんが馬鹿じゃいうとるんぞ」
酒井は首をかしげながら帰って行きました。
しかし朝日新聞の重役がえらい貫禄ですねえ。実話ですよ（汗）
広島弁風でアレンジしましたが、どなたか岡山弁に精通してる方
ネイティブさんがいたらアドバイスお願いすます。
美土路は急ぎ陸軍省の宇垣大臣を訪ねた。
「桜会ちゅうんを知っとるか？」
桜会というのはこの年の前年に
橋本欣五郎中佐らが中心となって結成した
陸軍内部の秘密結社。
この三月事件や後の十月事件を画策した。
「知っ、とる」
「その連中がお前を御輿に担いで
革命をやると騒いじょるのを
知っとるんか」
宇垣の態度がしどろもどろになった。その態度から
美土路は既に宇垣が知っていることを確信した。
「貴様そがな重大なことを知っておって
そのままにしておれば大変なことになるど。
早よう部下に言うて取締らせんか。止めさせるんじゃ！」
「ほうかあ・・・そんなんか」
「そんなどころじゃあるかい。
ワシらの耳にも入っとるんぞ。
有馬が酒井のケツかいて、酒井はのぼせ上っとった。
こがな事じゃあ成功するもんじゃない」
美土路の忠告がどこまで効果があったかはわかりません。
が、結局、桜会は宇垣の担ぎ出しに失敗。
三月事件も未遂に終わった・・・
しかしこの場面を深作欣二で演じさせたいもんですねえ。
美土路昌一（小林旭）
酒井栄蔵 （室田日出男）
宇垣一成 （山本麟一）
スチールのみ
有馬頼寧 （小池朝雄）
橋本欣五郎（伊吹吾郎）
東映『日本暗殺秘録』（1969年公開）から
カットされ、お蔵入りとなった問題エピソードという設定で
再編集して再公開望みます。
もっと知りたい人は
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