無償の愛について
浮浪者のことを
ルンペンといった時代もあったけれど
男はまさにルンペンそのものだった。
ズボンの尻は破れている。
街の新聞売りの少年たちにからかわれている。
いまだったらオヤジ狩りにあってるんだろう。
それくらいみすぼらしい小男なのだ。
それを花屋の店員が見て笑っている
それを若い女店主に話した
女主人も笑った。
少年たちに引きずり回されて
ようやくその場から立ち去ろうとした
小男が花屋の女店主を見た。
あらいやだあなたを見てますわよ。
店員がからかった。
小男は身動きしないで
じっと女店主をみつめている。
女店主は一輪の花と一枚の硬貨を
小男に渡そうとした。
それを渡して店の前から立ち去らせようと
考えたのかもしれない。
しかし男は受け取らない。
まだ彼女を見つめている。
どうしても硬貨を受け取らなかったが
それでも花は受け取った。
そのとき、小男の手が触れた
その感触に彼女は覚えがある。
それは、彼女がまだ盲目だった頃
親切にしてくれた、あの紳士のあたかい温もり
あの日、滞納家賃と眼の手術代と
この店をはじめる資金が賄うほどの大金を
与えてくれて、突然姿を消した
「あなたなのですか?」
小男は何も言わない。
ただずっと彼女を見て嬉しそうに
微笑んでいる。
「あなただったんですね」
「見えるようになったんだね」
チャーリーの笑顔
小難しい話は抜きにして
無償の愛がそこにある。
それは笑顔のチャーリーのやさしい眼差しだ。
それは1931年『街の灯』に焼きこまれている。
観てみてね。