あかんたれブルース

継続はチカラかな

Cause I love you

分福もののけ漫遊記(20)


中国雑技団「南京大サーカス」は
上海興行の出発前夜に
『分福さよならリサイタル』を行った。
これではずみをつけて上海に乗り込む
また、これがタレンティッドガール分福の
試金石でもあった。
もう綱渡りの曲芸の余興ではない。
純白のドレスを来た分福が
竹馬のようなヒールを履くと
それはまるでテルテル坊主のように
怪しく不可解で観客は言葉を失った。
オープニングは
悠明のヒットナンバーから
『守ってあげたい』
ゴンドラから分福がステージに下り立つ
それはまるで未知との遭遇でした。

You don't have a worry worry
守ってあげたい
あなたを苦しめるすべてのことから

バックコーラスがサビを歌って、はい分福
どうぞおおおお、と・・・
どうした、分福・・なにしてる・・・
分福は歌わない。

シーンとなる場内。

観客の視線は分福に集中する。
それを一身に浴びて分福はくクネックネしてる。
マイクからもれてきたのは
歌詞でも歌でもなくて
「恥し恥し」
なんと分福はアガってしまったのです。
その仕草その表情がみてるこっちも恥しくなる。
もう顔も茹蛸ダコみたいに真っ赤
そしてクネックネする、なんなのこの羞恥!
ざわめく観客はみてて耐えられなくなり
我を先にと出口に殺到した。
おおよそ二千人の観客がこれまで自分の人生の
あんなことこんなことの恥しい想い出が
走馬灯のように蘇り、ぐーるぐる
会場は阿鼻叫喚の大パニックだ!

一夜明けて
「南京大サーカス」は上海へ出発した。
分福を置き去りにして
南京港の片隅で小さな狸が肩をふるわせている。
潮風にちぎれて
分福の夢も千切れてキャベツの千切り
その茶釜にふたつの影がそっと近づく
杜子坊と権耳です。

「分福・・・」
「来ないで」
「元気だせよ」
「パピ」
「みないで!
 笑いにきたんか」
「そんなことないよ」
パイポピ」
「客が寄りつかんようになるから
 クビやて・・・・エーン」
分福は号泣しちゃった。
それを必死になだめる杜子坊と権耳。
「なにも芸能だけがすべてじゃないよ」
「綱渡りしてたときは上手くできてたんや
 それが急にステージに立ったら
 急に真っ白になってみんなの視線が怖くなって
 恥しくなって居たたまれなくなって」
「きっと綱のバランスに集中してんだね」
「せっかく狸でも茶釜でも生きていけると
 思ったのに・・・みんなに愛されると信じたのに」
「それもみんな呪いだよ。
 君はいつまでも狸や茶釜であってはいけないんだ。
 その呪いを解いてしまおうよ、ねっ」
「ぷピイ」
「解けますか」
「解けるさ。それに」
「それに・・」
「僕たちがいるじゃないか」
「プピイイイ!」
「うえーんんん!」

三人は手をつないで帰った
歌いながら