あかんたれブルース

継続はチカラかな

胡瓜で魔性を釣る

分福もののけ漫遊記(23)


翌日、杜子坊たちは朝餉をすませると
昼食の食材をもとめて近くの河に向かった。
釣り糸を垂らしながら
杜子坊は昨夜の徐福の言葉を思い返し考えていた。
「こら、釣り糸に針がついてないやないの」
「ポッ、パイポーポー」(よっ、太公望
ほれこれでもと分福が一本の胡瓜を取り出して
釣り糸に結びつけた。
「ピューピー?」(キュウリ?)
はたしてそれで釣れるものか
うすらぽかんと杜子坊は竿先を眺めていました。
「パ!ピーペプピーペプ」(引いてる!)
突然、竿がぐいぐいと水中から引っ張られ
もっていかれそうになった。
竿を引くと大きくしなり折れそうだ。
「大物や!」
分福が叫んだ。
慎重に獲物を手繰り寄せ
「権耳タモを」
パピポポポぺ(汗)」(網のことね(汗))
分福と権耳は二人がかりで
その獲物をトモですくいとった。
「な、なんやこれは!」
「パパプ?」(鯰?)
黒々としたそれは網を食い千切ろうと
ジタバタもがいている。甲羅がある。
「亀か」
「ぷっぽん?」(すっぽん?)
「河童だ!」
なんと釣り上げたのは河童だった。
「こらぁ、早よ出さんかいボケぇ」
人語を操る河童が悪態をついて威嚇する。
「噛みつくで祟るでヘノコダマ抜きたんねん」
唖然とする杜子坊、分福、権耳の三人。
と、分福が一歩二歩と歩み寄る。
「分福危ないよ」
杜子坊が分福を制止しようとしますが、
「皮蛋?」
「・・・」
ピータンなんか」
ブンタン、あんた分福なんか」
ピータン!」
ブンタン!」
なんと二人は旧知の間柄だったのです。
ここで説明しますと
唐の時代に二人は洛陽で御近所付き合いをしていた。
皮蛋は河童でしたが人間に化けていた妖怪。
茶釜狸と河童ということで気があったようです。
そして分福が音信不通になってしまう。
杜子坊とともにタイムスリップしたなんて知らない。
その後時は流れて五代十国、宋と王朝は代わり
元によって混迷をきわめ、そして明の時代となった。
皮蛋は河童もののけなので歳をとりません。
浮世から逃れて河童としてこの河に棲みついて
いたそうです。
それがまさかこんなところで分福と再会するとは
ああ長生きはするもんだと
二人は抱き合ってオイオイ泣くのでした。

「また変なのが加わったなあ」
「なにこいつ。早よ網からださんかい」
皮蛋は分福の保護者を自認しているようでした。
この間のことを分福から説明させても
なにやら面白くないようです。
ブンタンこんなしょうもないのんとは
 別れていまい。こいつは単なる通過点や」
「随分な言い草だなあ」
「ピプペーパ!」(失礼な!)
皮蛋はかつて人間を目指していた
妖怪人間でしたがほとほと人間というものに
愛想が尽きてしまい、妖怪がこの世界を支配する
猿の惑星ならぬ河童の惑星に
変革しなければならないという妄想を抱いていた。
そこは河童だけではなく狸も誰でも共存できる
理想の世界です。
「人間も?」
「まあ人によるけどな」
「杜子坊や権耳は?」
「・・・ふん、しゃなしやで」
「これはこれは有り難いことで」
「ポパンパポウプププポー」(ご飯どうするの)
「そうかあもう昼時かあ」
「それやったらワテにまかしとき」
そういうと皮蛋はザブンと河に飛び込み
鯉と鰻とスッポンを咥えてきました。

この日の献立
鯉の洗い
スッポンの肝焼きと唐揚げ
鰻の白焼き・肝吸い付き
鯉こく
スッポン鍋から雑炊へ

満足満足。