あかんたれブルース

継続はチカラかな

生と死をみつめて

分福もののけ漫遊記(24)


その日は九月の十三夜
食事を終えてお月見をしました。
満天の星空にくっきりとした満月。
皮蛋は円形恐怖症なのでフテ寝しています。
河童は丸いものを怖がるって知ってました?
それで円形脱毛症なんですね。
中年の男性でカッパハゲの人は遺伝子に
河童のDNAが入っているそうです。

天の川がはっきりと見えるこの時代
人々は常に天空を眺めて宇宙を天上界を
想像していたのです。
ふと、横で分福の肩が震えています。
「どうした分福。大丈夫?」
「なんか怖いでござるよ」
「死んだらどうなるでござるか?」
「さあ、どうかなあ」
「消えてなくなるのでござるか?」
「僕にはよくわからない」
「杜子坊はなぜ仙人を諦めたのでござるか
 仙人は不老不死で永遠の命を
 手に入れられるでござるよ」
「自分だけ生き残ってもつまらなんじゃない」
愛する人と一緒だったらつまるでござるか」
「それもそうだろうけど
 なんか違う気がしたんだよ。
 有限だからこそ価値があるんじゃないかって」
「なにがでござる」
「愛するってことがさ」
「アタシは愛するって意味がよくわからへん」
「人間は必ず死ぬんだ。これは絶対の掟だ。
 しかし肉体は亡んでも魂は死なない。
 その人を想う人あらば、その魂は永遠に不滅だ」
「杜子坊・・アタシは人間ですか?」
「お前は人間だよ。呪いがかかってるだけさ」
「でも呪いがかかってる間は妖怪でござる。
 もしこのままずっと呪いがとけなんだら
 ずーっと歳とらないでござるよ。
 そしたら杜子坊も権耳も死んでいなくなって
 しまうでござるよ。そんなこと考えたら
 哀しくなったでござる。
 後は河童と爺の仙人だけなんて
 哀しいよおおおおお」
「ふん、黙って聞いてれば失礼なやっちゃで」
「あれ、皮蛋。お月さん大丈夫なん?」
「サングラスしとるわ」
「ムーングラスだね」
「おい、落第仙人。
 主は永遠の命に興味ないいうとったな」
「というか、それに価値を見出さなかった」
「死にたいんか」
「いやそういうわけじゃないけど」
「ワテは死にたいんや」
「ええっ」
「もう飽きてもうた。
 ワテが人間になりたいんは死ぬためや。
 じゃなかったらあんなセコイ人間なんかに
 誰がなりたい思うかい」
「永遠の命を求める人間と
 有限の命を求める妖怪か
 うまくいかないもんだね」
「まったくや。
 でもなあ、ブンタンみとったら
 いつか自分も人間になれるんやないかと
 思うてな」
「なんでそんなふうに思ったの?」
「わからへん。ブンタンは妖怪でもないし
 かといってよくいる人間とも違うねん。
 なんなんやろうと最初は思ったんやけど
 それで付き合ってるうちに、
 なんかブンタンと一緒やったら
 人間になれるんちゃうか
 それはウチラが忌み嫌う人間やのうて
 もっとましな部類の人間やけどな」
「ああ・・・なんとなくわかるよ」

「あれ? ブンタンは?」
いままで傍らにいたはずの分福がいません。
杜子坊は分福を探した。