あかんたれブルース

継続はチカラかな

ずぶ濡れの漢はちょっと足りない?

Aさんのお話(2)


Aさんは現役の解体屋です。
あの火事になったドヤにはもう十数年も
住んでるのだそうです。
そんなAさんが困ったのは玄関の棚に
置いてあった仕事道具が焼けてしまったこと。

解体の仕事道具って高いんですか?
「全部で100万円ぐらいかな」

100万円!

そんなわけで職場の連中がよく俺の道具を
盗むんだよ。手癖の悪いのが多いからね。
とAさんは笑う。
でね、そんなAさんの今回の災難に
これまで不義理をした連中がそれぞれ
新しい道具を買って持ち寄ってきたんだそうです。
「この服も仲間が買ってくれたんだ」
とAさんは嬉しそうに笑うのだそうです。

仕事道具だけでなく火事で仕事関係の免許証
一切が焼けてしまったとか。
なんたってパンツ一枚で焼け出されたんですからね。
幸い仕事先の親会社にコピーがあった。
それでも再発行されるまで仕事できないんで
困ってるんだとか。

なんか暢気というか・・・バカなのか?
そうとうのお人好しみたいです。

彼の小指には指輪の刺青がある。
「温泉でもいって体を休めたらどうですか」
「俺はこれだからなあ」
そうなんです。Aさんは二の腕から墨を入れている。
最近は喧しいですからねえ・・・
なんかせつない。
でもAさんて
やくざだったんだろうか?

家族はいないんだろうか・・・
職業としてこちらから踏み込んだ質問は
タブーなのですが、さち子も
Aさんのことに興味津々なのです。

火事の興奮がさめやらないせいか
その日のAさんは饒舌だった。

俺はこんな男だら女房に二度逃げられてるんだ。
だから、三回目は通い婚なんだよ。
と、Aさんはテレ笑い。
・・・えっ、ということは同じ女性?

「そうだよ中学のときの同級生」

運命の人だったんですね!

「そうだね。中学を卒業して上京して
 この稼業に入ったんだ。
 何年か経って、この街で女房と出逢った。
 お互いそれが同級生だとはわからなかったんだが
 俺の小指の刺青でそのことがわかったんだよ。
 俺が刺青を入れたは中学生のときなんだ」
と、Aさんは恥しそうに笑いました。


続く