明治イイ女列伝(3)お倉-3
明治の黒幕赤組横綱(3)
お倉は持ち前の美貌と気っ風のよさで、横浜でも売れっ子芸者になります。
明治四年九月のはじめ。
そんなお倉に「名古屋」という料理屋から呼び出しの使いがありました。
この政府の高官というのが、なんと、あの、井上聞多、薫ちゃん(笑)。
井上はお倉に糸屋平八との仲介を頼むのです。
「天下の糸平」こと、田中平八がここで登場するのですね。
明治の相場師で天下と付くのは「天下の桃介」「天下の雨宮」とか他にもありますが、
なんといっても本家本元元祖決定版は「天下の糸平」です。
甲州財閥の一人と目されていますが出身は長野です。
神道無念流の斎藤道場に通い勤王の志士として活躍。
清河八郎の同士となったり、天誅組の幹部や長州藩士、佐久間象山との交流。
天狗党に参加したり、池田屋騒動でも間一髪で命を拾っている不思議な人物。
相場師としては大儲けと大損のジェットコースター人生の達人。
何度目かのどん底から立ち直りまして、当時は横浜でも有数の両替商を営んでおります。
井上はこの糸平の度胸を買いました。
渋沢栄一、益田孝同様に糸平は井上馨に認められたのですね。
当時、日本の諸藩は莫大な借金を抱えて明治を迎えておりました。
金を貸していたのは外国の商人からです。
それを明治政府が引き継ぐのですが、銀本位制でドルで返済しなければならない。
大きなお金が動きますから、相場が動きます。
つまり、銀を大量に買い占めることになるので銀相場が高騰してしまう。
井上はこれを避けたくて、糸平に密かに銀の買い占めを依頼したかったのです。
二人の会談はすぐに成立しました。
今後、作戦を練ったりする場所が必要になります。秘密の隠れ家みたいなやつ。
そこで、糸平がこう言います。
「カネは私が出します。お倉さんに小料理屋を買ってもらいます」
これが横浜「富貴楼」の誕生の真相です。
写真は「天下の糸平」こと、田中平八。