戦争と平和(10)
その男は死の数日前に不思議な夢を見た。
彼が歩いていると、間の抜けた貧しげな集団と行き逢い
次に厳粛な顔つきをした一団とゆき逢った。
あれはだれですか? と訪ねると、
前者は天国へゆく人々で、後者は神の怒りにふれて地獄へゆく古の哲学者だという。
「おまえはどちらへいきたいか」と訪ねられた。
男は、あの馬鹿どもと天国へゆくよりも、後の人々とともに地獄へいきたい。
そう答えたときに、夢は醒めた。
男の名はマッキャベェリ。
見えないものを見る力を有すした人類史上数少ない人間でした。
同じ時代にミケランジェロやダビンチが芸術に光を見いだしたの対して、
彼の洞察力は人間と国家の本性を真髄を見透かしてとらえた。
その書はナポレオンの座右の書となり、
後世にマキャベリズムの名を残すルネッサンスという時代が生んだ天才。
けれども彼の生涯はあまりのも不遇だった。
風采のあがらない、ひ弱な人物として扱われ、
フィレンツェ国の書記官というとるに足りない地位に甘んじていた。
彼にとっての最後の年は、ドイツ侵略の前に風前の灯火にあった
フィレンツェ国の防衛に知力をしぼりましたが、
臆病風にふかれた政府から解任され、蟄居を命じられたいた。
1527年6月22日。
マッキャベェリは古の哲人たちの仲間入りをはたします。
マッキャベェリとは
イタリア統一の悲願に燃えた誠実な愛国者である。
天才っていうのは生前にはなかなか認められないものです。
「誠実な愛国者」
この言葉は、山田風太郎がその著書『人間臨終図鑑』でマッキャベェリに捧げたものです。
山田風太郎は優しい。
感動した(涙)。