あかんたれブルース

継続はチカラかな

新宿の殺し屋


JJ.と新宿で待ち合わせた。
場所はアルタ前(恥)
約束の時間は12時なのに30分も早く着いてしまった。
でもアイツのことだから2時間前に来てるかもしれない。
胸騒ぎの予感がしてケータイを鳴らした。

アイツは3時間も前に来ていた。
道路の向こうの喫煙広場にいるという

連れだって歌舞伎町のほうに流れる


昔、新宿に小島重明という男がいた。
新宿の殺し屋といわれていた。
賭け将棋のプロの将棋指し。
バカな男だった。
団鬼六はこのバカを愛した。
できれば、表の世界で認められる将棋指しにしてやりたかった。
ところが、小島は正式な試合ではからっきしダメなんだ。
賭け将棋じゃないと力を発揮しない。
日本の表の世界でそれは認められない。
つまり、小島重明は認められない。


そして小島重明は死んだ。


生ビール170円に釣られて
雑居ビル地階の「かっぱ」という居酒屋に入る。
「すみません。12時からなんです」
時計をみたら11時45分だった(汗)
入店を断られ
階段の踊り場で煙草吸って
待ったさ。

月曜日の昼間っから飲むのって気持ちがいいねえ。
ホンとは眼には悪いんだけど
今日は大目に見てもらおう。

なあJJ.俺もお前ももうおバカの7合目だ。いや8合目かもしれない。

「うっきーうきうき」

間違っても小知恵をつけて道を誤まっちゃあいけない。

「うっきーうきうき」

中途半端じゃなお不味い。一流のおバカさんを目指すんだ。

「うっきー」

損得を考えない。自分のことをほおっておけるおバカさんだぞ。

「うっきっき」


ガラガラだった店が次第に混んでくるから不思議。
さすがは歌舞伎町だよね。
5時半までそこに腰を据えてたっけかね。
外はまだ明るかったので眩しい。
西日を避けるようにしかめっ面をして
新宿駅に向かう。


そして、小島はバカな男だった。
新宿の殺し屋という異名とは程遠く
やさしくて意思の弱い男だった。
卑屈でカッコ悪い男だった。

小島重明は死んだ。


団鬼六は怒ってばかりだったのに
小島のバカを愛していた。
悲しんでいた。

愛は悲しい。



オレンジ色の電車でJJ.は西へ
俺は東に別れた。


団鬼六も死んだ。
代々木から千駄ヶ谷の間にある
将棋会館がぼやけていた。