あかんたれブルース

継続はチカラかな

積み重ねられていく差別の断層『ギャング・オブ・ニューヨーク』

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 [WASP(ワスプ)]という言葉を御存知ですか?
 
 ジャーニーズ事務所とかのアイドルグループじゃないですよ。
 「最古のアメリカ人」
 もちろんインディアンじゃあない。

 白人でアングロサクソン(ドイツ・イギリス人種)でプロテスタントキリスト教の宗派)

 アメリカの支配階級を指す、若しくは揶揄するときに使われます。
 ちょっとニュアンスは異なりますが「江戸っ子」みたいなものでしょうか。
 メイフラワー号で新天地にたどり着いた清教徒たち、
 彼らと対立関係にあったアイルランドカトリック教徒によって使われた言葉だそうです。

 人種と宗教。そして、利権。
 自由の国アメリカは最初から差別と対立をエネルギーとしていました。

 アイルランド系が嫌われ役を一手に引き受け、
 ポーランド系がやって来て、ようやく「アメリカ人」となり、
 イタリアがやって来て、スラブ系がやって来て、中国系がやって来て、日系がやって来る。
 稚拙な達磨落としのような逆椅子取りゲームは解放と差別を手順よくこなしていきます。
 その日系もインド人、フィリピン人、メキシコ人の進入のおかげで敵視されなくなったとか。

 その意味で、映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』は冒頭からショックでした。
 同じアイルランド人同士の激突で映画は始まります。
 その暴力シーンもさることながら、同胞であるアイルランド人の移民を、
 「ネイティブ・アメリカンズ」と称する此の地で生まれたアイルランド系二世が
 「よそ者」と罵倒して排除しようとする。
 最初、その状況がよくつかめなかったのです。暗い石造りの地下道から繰り出す戦士たち。
 洗礼を受け、誓う。此処は中世なのか?

 ようやく、そのことに気づいて、目眩を感じました。

 『仁義なき戦い』の真の原作者・美能幸三がプロデュースしたとされる
 『脱獄広島殺人囚』という作品があります。
 最初の事件から投獄され、刑務所の中でさらなる事件を起こして刑期を重ねていった男の話。
 このモデルとなった男と共に、美能と東映プロデューサーと脚本家が、
 男の、といっても老人ですが。この老人の故郷を訪ねたそうです。

 その故郷は瀬戸内か四国の被差別部落地区でした。
 老人の家族縁者はすでに存在しません。
 それでも、老人はもう何十年も故郷に帰っておらず、とても懐かしがっていたとか。
 けれども、この地区の住民の老人に対する視線は厳しいものだったそうです。

 老人の家族からハンセン病患者が出たことが理由だと知り、脚本家の野上龍雄は泣きました。

 差別の中にさらなる過酷な差別が存在する。
 その最初の差別の在処は曖昧なものであっても、過酷に成長していきます。