あかんたれブルース

継続はチカラかな

藤沢作品『驟り雨』の灯



NHKの朝の連ドラを一服の清涼剤
というふうに記しましたが
作家藤沢周平の作品もそういうなかのひとつ
ではなかろうかと思います。
最近ではドラマ化映画化などされていますね。
池波さんほどではないけれど
藤沢周平のブームは地味ではあるけれど
多くのファンの心をつかんでいるようです。

藤沢さんは作家デビューしてから
前期と後期で作風が様変わりする。
前期は28歳の妻をガンで亡くした喪失感から
小説を書くことでその悲しみから逃れようとして
いたそうですね。その頃は
世を儚みハッピーエンドが書けなかったと
藤沢さん自身が告白している。
武士は死に恋愛は成就しない。シビアな人生観。

その後、再婚して次第に
彼の心のうちに変化が生まれた。
人情話のような暖かい救いのある作品を
手がけていくようになる。

そんななかに『驟り雨』というのがありまして
研ぎ師職人だった男が
身ごもった女房を腹の子もろとも失った
喪失感から盗人になってしまっていた。
その晩、狙いを定めた商家の近くの神社の軒下に
潜んでいた。その夜は雨がだった。
身を潜めているその間に
盗人はいくつかの醜い人間同士の性を垣間見る。
殺伐とした世のなかの殺伐した人間の有様に
ささくれた盗人の心は
荒塩を擦りこむようでもあり、
盗人は「へん」と鼻を鳴らすのだった。
そんななかで病弱な女が十才ぐらいの童女
手を引かれて暗い夜道をとぼとぼと歩いてくる。
ふたりは盗人が潜む神社で休み
不実な亭主のために困窮した状況を
知らず知らず語るのでした。

その理不尽な話に盗人は
この薄幸の母娘と死んだ女房と子供のことを
重ねてしまい、今宵の悪事をやめて
その母娘の後を追う・・・
背中をかしてその母親を背負って
再生しようという
今だったら浪花節じゃないかと嗤われそうな
そんなお話なのですが、これが沁みるのだ。
藤沢ファンだったわかるよね。

この愛を同情だとして認めない
人もいるでしょう。
同情は禁物、上から目線だとか、歪んだ愛情
なんやかんやとやかましい世の中です。
それを許さない世の中だ。

そういう世の中に作家藤沢周平
一灯を捧げた人だった。
最愛の妻を亡くした悲しみ挫折怒り嫉妬無情
そういうことをのり越えた人が灯した明かり
その灯りに救われるおもいです。

涙の温度はかだらの温度
心が溶けて溢れだしたしるし
いろんなおもいが瞼に届き
流れ落ちた生きるしるし
(高橋優「涙の温度」)
なんて歌もあったけかね。

右も左も真っ暗闇の世の中だけど
であればこそ、誰かがではなく
一人一人が小さな灯を燈せたらいいよね。

誰が為に鐘は鳴る・・か
ゆえに問うなかれ誰がために鐘は鳴るやと。
其は汝がために鳴るなれば