「おそめ」から(3)
『おそめ』の本のなかで、多くの証言者が
俊藤浩滋を悪い男だといいます。
そういって、一番に俊藤を毛嫌いしたが、おそめの母親でした。
それでも、おそめは俊藤浩滋を愛します。
彼女にとって一番悲しい記憶は、俊藤との結婚後に知った、彼の妻の存在。
そして、三人の子供の存在です。
ここで、彼女は俊藤という男の不実を呪い、苛まれて、選択を余儀なくされます。
けれども、俊藤浩滋という男に真から惚れているおそめにとって、別れることはできない。
惚れた弱み。
周囲は、そんなおそめを歯がゆく思い。俊藤への憎悪をさらに大きくしたことでしょう。
古代ローマ時代の英雄カエサル。シーザーといったほうがわかりやすいですかね。
若い頃の彼は莫大な借金を抱えていました。
彼の遊蕩が原因です。交際費といいましょうか。浮き名の代償です。
けれども、その額が多ければ多いほど、借金取りと負債者の関係は逆転するようです。
恋愛も同じ。
人の恋路を邪魔する奴は「馬」に蹴られて、、、。ってね。
俊藤はおそめに対して、声を荒げたり、暴力をふるったことはなかった。
京都で女給をはじめたころ、ヒモ同然の俊藤が雨の中、おそめの着替えと傘を持て迎えにきます。
土砂降りの雨の中を一直線に駆けよるおそめ。
びしょ濡れの男と女。
そして、二人はその場を立ち去っていく。
周囲は、その姿をうっとりするよういに、溜め息をついて、見つめていたそうです。
「あれなら惚れるは、、、。」
相合傘は二人の左右の肩を濡らします。
それでも濡れて歩きたい。ひとつの傘でふたりは幸せ。
色恋、恋愛は間尺に合う代物ではないんですね。
女が、男が、惚れる。その動機は?
容姿。生活力。知名度。体力。才能。優しさ。などなど
それは、その当人同士のものなんでしょうね。
おそめは俊藤を愛しました。俊藤はおそめを愛しました。それだけ