あかんたれブルース

継続はチカラかな

いくらあっても足りない金

村山さん、弾はまだ残っとるがよ(6)


津田一派との死闘を制した朝日新聞
伊藤博文からの政府機密費で経営を建て直し
売上げ日本一となり、東京進出を果たす。
これが『東京朝日新聞』(東朝)となる。

大阪の朝日新聞は『大阪朝日新聞』(大朝)

カバの化け物といわれた押し通ること
星亨の『めさまし新聞』を買い取ったのだ。
この新聞は名うての反政府民権新聞だったのだのだ。

星は陸奥宗光の一の子分で、杉山茂丸の親友。
大井憲太郎にかわり自由党の若きリーダーでもある。
金に汚いと新聞にあることないこと書かれて
後に東京市議会室で伊庭想太郎に暗殺されちゃう。
ホントはねえ、慎ましやかな漢だったんですよ。
自分は左官屋の倅で、育ての父は易者
たとえ栄達しても苦労した母親に堅苦しい思いをさせまいと
もらった女房は畳屋の娘だ(涙)。

星が金に執着したのは自由党の政治資金だった。
政治に金がかかるのは昔も今も同じ。
いくらあっても足りないんだな。


その頃、『大朝』に池辺三山という大型新人が入社する。
この池辺は陸羯南の新聞『日本』出身です。

陸羯南といえば明治三大記者に数えられるジャーナリストで
坂の上の雲』で正岡子規の保護者として登場したことで
記憶にあるかたは多いのではないだろうか。

東大を中退して(学業についていけないから)
新聞記者になりたいう子規に
朝日新聞を紹介していた陸羯南

なんで朝日新聞なんだ?

と不思議に思った読者多かったのではないだろうか。
実は陸の新聞『日本』と『朝日新聞』は非常に密接な
血はつながっていないけれど幼友達親友関係だった。
いや、池辺入社以降多くの新聞『日本』出身記者からの
輸血を受けて
朝日新聞は「知性と品格」を得る、体質改善に成功します。

だって、売上げ日本一ですからね。
それなりに立派な新聞にしたかったわけだ。

池辺入社から杉浦重剛、高橋健三、内藤湖南、鳥居素川など
新聞『日本』系および出身者の逸材が東西朝日に入社します。

来る者あれば、去る者ある。

朝日を去った宇田川文海のお話を少々
この人は朝日のライバル『魁新聞』に引き抜かれたんだけれど
同紙廃刊から朝日に入った。
名文家で当時は一世を風靡した筆のプロフェッショナル。

朝日新聞社史に彼の貴重な写真が掲載されています。

ちょん髷を結ってる(汗)
風邪でもひいたのか大きなマスクで口元を隠していた。
なんかお多福風邪でもかかったのか気管支炎?

その理由が、『上野理一伝』というぶ厚い本で発見。

文海はお寺に預けられ小僧をしてた。一休さんみたいな。
ある日、和尚さんのお供をして外出。
その夜の帰り道
暗がりの辻から白刃を抜いた曲者が問答無用で!
和尚さん即死。そして曲者は
返す刀で無残にも文海少年の顔面に打ち込んだ。
死んだと思ったんでしょうねえ。
しかしまだ息があった。一命は取りとめたけど
口元から下顎にかけてざっくり斬られて重傷。
これによって文海の口は開きっぱなし。惨いねえ(汗)
犯人は攘夷派の浪士だったとか。

障害を背負った文海でしたが筆が彼に身を立たせた。
得意とするのは色物艶物という下世話ゴシップ再現ドラマだ。
面白いのは彼が書いた旧岸和田藩お家騒動の噂の真相連載が
旧藩主岡部家から訴えられて、裁判沙汰になったってことです。
因果はめぐりますねえ。

そんな人気作家の文海も売上げ日本一になった朝日では
必要とされなくなってしまう。
もう醤油屋の商人新聞、小新聞ではない。

ま、それもありますがね。
文海が朝日を退職したもうひとつの理由は
脅迫事件を起こしたからだ。

新聞記者は様々な情報を得るので、悪用する場合が
当時は多かった。
「社長、今期の決済は水増しですね」とか強請タカリで
金銭を要求する場合が非常に多かったんです。
また、新聞記者のなかに探訪という巷の噂を聞きつける
職業おばさん的記者もいて、これがねえ・・・

そんなわけで、新聞記者の世間の評判、信用は
まあ今とどっこいどっこいです。
だから、村山龍平新社長は根はケチでも
朝日新聞記者の給料を他社より高くしていたわけです。

どう話はつながった?

ただね、限りないのが人の欲ですから
それでも悪事を働く奴は出る。
今でも銀座の某高級紳士服店で背広を仕立てるのが
政治部記者の憧れのステータスだそうな。噂ですよ。
その金はいったいどこから出てるのか・・・


ま、みんながみんなそうじゃないけんだけどね。
人は金に転びやすいって話です。
よくてもわるくても流されやすいんだな。